《今振り返る》ギターアンプの名器「VOX AC30」2017年5月31日

復刻モデル「AC30C2」

ロック創世記のアンプ「VOX AC30」

VOXの歴史

イギリスを代表するアンプメーカーの一つであるVOX。VOXブランドは、楽器店を営んでいたトム・ジェニングスと、演奏の傍らアンプの設計も行っていた設計者ディック・デニーの二人によって創設されたJMI Corporationに端を発します。当時は1950年代。エレクトリックギターが勃興し、新しいアンプのニーズが高まっていたころです。JMIのスタッフは、ライブで長いサステインを得られるアンプの設計に着手。その結果として、1958年「AC1/15」が発表されます。略してAC15と呼ばれた「AC1/15」は、一躍ロンドンのギタリスト達の愛用アンプとなりました。

やがてロックンロールが世界を席巻するとともに、ライヴのための大出力アンプが望まれました。そこでVOXは前モデルのAC15にスピーカーをひとつ増設、2チャンネルの4インプット仕様とし、「AC30/4 Twin」という新機種を発表します。「AC30/4」は通称AC30と呼ばれ、AC15のサウンドをモチーフとして出力を倍にすることで、当時ライヴ会場での出力不足を解消し、さらに粘っこいサウンドを実現。その後、1961年にはブリリアント・チャンネルを増設し、インプットを6系統に増やした「AC30/6 Twin」というモデルがAC30/4に置き換わって登場。これが現在に至るAC30の始祖的な位置づけとなり、今ではイギリスのギタートーンを代表するアンプとして、定番の一つになっています。


現在のVOXはコルグの傘下に入り、デジタル製品に至るまでの幅広いラインナップが魅力です

その後、VOXは1967年、創設者のジェニングスとデニーがJMIを離れるとともに、程なくしてソリッドステートアンプの路線へと舵を切ります。ブリティッシュアンプの雄としての地位はマーシャルに引き継がれ、VOXは様々な会社の傘下を転々とします。70年代にはマーシャルの販売代理店を務めていたローズ・モーリス社へ売却され、その後、90年代初頭にはコルグの傘下に入りました。現在AC30として手に入りやすいモデルはこのコルグ傘下になってからものがほとんどです。

AC30を使用したギタリスト達

VOX AC30をはじめに使用したのは当時人気を誇っていたザ・シャドウズでしたが、これを世界的に有名にした最大の功労者はやはりビートルズでしょう。膨大に残るライブ映像のバックには常にVOXアンプが並んでいます。1962年のデビュー時にAC15、AC30を用いてレコーディングをこなして以来、解散まで常にVOXのアンプは彼らとともにありました。


「Hello Goodbye」プロモーションビデオ。バックに写っているのは60年代後期に発売された「The Vox Defiant」

また、そのビートルズに影響を受けたクイーンのブライアン・メイ氏もAC30の愛用者の一人です。ブライアンはAC30以外はほぼ使わないと公言するほどこれが気に入っており、自身のオリジナル・カスタムギターであるレッド・スペシャルにトレブル・ブースター、AC30が彼のトーンの秘訣と言われます。AC30といえばトップ・ブースト回路が搭載されているものが有名ですが、彼はこれを使用せず、ノーマルチャンネルのボリュームをフルアップさせて歪んだ音を作り出しています。


クイーン86年のライブ。ブライアンの後ろにAC30が確認できます。

その他、ジミー・ペイジリッチー・ブラックモアなど、特にイギリスのミュージシャンに幅広く使われたVOX AC30は、のちにマーシャルアンプに取って代わられるまで、ブリティッシュアンプの代表的存在として定番に君臨し続けました。

アンプの構成

VOX AC30は二つのスピーカーを備えたコンボアンプであり、ごく初期のモデルを除き、トップ・ブースト回路が備わっています。

真空管

最初期のオリジナルAC30にはプリ管にEF86、パワー管にEL84が、電流を制御するための整流管にはGZ34が使われています。後に三つ目のチャンネルとなるブリリアント・チャンネルが増設された際にプリ管がECC83に変更され、現在でも手に入るJMI時代のモデルは一般的にこれであることが多いです。回路構造はクラスA回路になっており、マーシャルなどに使用されたクラスBに比べて、滑らかな歪みが得にくく、真空管の寿命が短いと言われる反面、鮮明なクリーントーンを得ることが出来ます。

スピーカー

オリジナルのAC30にはセレッションのアルニコブルースピーカーが搭載されています。再生効率が極めて高く、大音量が得やすいのが特徴。音色はやはりヴィンテージ傾向の強いものとなり、粘っこい中域と煌びやかな高域が得られます。反面、レンジが広く適度に歪んだ現代的な音などは苦手なので、現在の復刻モデル(AC30C2、AC30/6 TBなど)では、同じくセレッションのグリーンバックスピーカーを載せたモデルも見受けられます。

コントロール

オリジナルのJMIモデルと言われるものは、ブリリアントチャンネルの付いた「AC30/6」でNORMAL、BRILLIANT、TREM/VIBの3チャンネル。それが各々2系統ずつ、計6インプットの仕様です。各チャンネルごとのボリュームが3つ、一番右側にチャンネル共通のTONEを装備し、パワーサプライ部にはセレクターがあり、ボルテージの変更が可能です。

JMI時代、初期の「AC30/6」コントロール

上図のような、全チャンネル共通のTONEが一つだけの仕様は、ごく初期のもっともシンプルなものです。この後、トップブースト回路を増設するにつれて、TREBLEとBASS、TONE CUTを含む詳細なイコライザー部が新たに加わり、これが現在のVOX AC30としての定番のコントロールになっています。回すほど高音を削いでいくTONE CUTは現在の復刻モデルでも必ず見られるVOXアンプ独特のコントロールとして重要な位置を占めています。

当時はマスターボリュームという概念がなく、歪ませるにはボリュームを最大近くまで上げ、自然的な負荷を掛けるしかありません。現在の復刻モデルではほとんどのものにマスターボリュームが併設されるようになっています。

2017年5月現在、現行「AC30C」コントロール

サウンドの特徴

歪まないアンプという印象も強いVOX AC30ですが、実際にボリュームをしっかり上げると、良質なオーバードライブが得られます。そのドライブの音は、現在ブリティッシュ系の音として認識される代表的なもので、絶妙なコンプ感とレンジの広さを有し、良く伸びる高音が持ち味です。ブライアン・メイ氏はこれとトレブルブースターを併用して、あの名トーンを産み出しているので、そのサウンドもひとつの指標となるでしょう。

チャンネルリンク

マーシャルなどと同じく、AC30もチャンネルリンクを使用するギタリストが多いアンプです。昨今、通常に手に入るAC30の復刻モデルにはいずれもTOP BOOST HIGH/LOWとNORMAL HIGH/LOWと、2チャンネル×2系統で計4つのインプットがありますが、TOP BOOSTのHIGHにギターを繋ぎ、TOP BOOST LOWとNORMAL HIGHをパッチケーブルで接続することで、よりパワフルな音像を得ることが出来ます。

下で紹介しているAC30CCシリーズはこれが出来ませんが、擬似的に再現する「リンクスイッチ」なるものが装備されています。

復刻された数々のVOX AC30

JMI時代のいわゆるオリジナルAC30は、ビートルズの音色で聴けるように、はじけるような高音と粘っこい中域が印象的でした。90年代に入り、ローズ・モーリス社の最後期に登場してコルグに引き継がれた「AC30/6 TB」は、そのサウンドをそのまま踏襲したもので、音色的には厳然たる復刻モデルと呼べるものです。ポール・マッカートニーがライブに使用していたことでも有名なこのモデルは、下記に記す現代的なモデルとも違ってマスターボリュームさえなく、良くも悪しくも往年のオリジナルを彷彿させるものです。コルグ時代のものは現在でも中古で手に入りやすいでしょう。

コルグ傘下になってからは「AC30CC(Custom Classic)」「AC30C(Custom)」そして「AC30HW(Hand Wired)」と、復刻モデルが次々とリリースされています。Custom Classicは音色からコントロール類に至るまで、現代的な味付けを色濃くしたモデルであり、それと入れ替わりにラインナップされたCustomはよりオリジナルに近い印象を与えるものになりました。この二種は現在AC30を見かける際には、もっとも多いモデルです。Hand-Wiredモデルは基板を使わず全てを手作業で配線した高価なモデル。音色も現在新品で手に入るAC30としては最高のもので、まさに現代AC30のトップと言える存在です。

AC30C(Custom)シリーズ

AC30オリジナルの音色と傾向をそのままに、細部を現代風に練り直されたAC30 Custom。下に述べるCustom Classicシリーズが販売終了した後の展開となり、2017年現在での現行となります。CC版に比べると、スイッチの数も減り、シンプルに回帰した印象を受けます。サウンドもオリジナルのものに近づき、いわゆるVOXらしい音を出力します。

真空管はEL84、ECC83と、オリジナルからの系譜を受け継いでいますが、整流管はソリッドステートに置き換わっています。スピーカーにはよりモダンな音に適したセレッションのグリーンバックスピーカー(AC30C2)か、あるいはオリジナルに忠実なアルニコブルースピーカー(AC30C2X)のいずれかを選択。Custom Classicシリーズ同様、アンプヘッド版のCHや、AC30ではなくAC15のCustom版など、多岐に渡る展開がなされています。

AC30C2、AC30C2X

NORMALとTOP BOOSTがHIGHとLOWの各2系統ずつ、併せて4系統となりました。ブリリアント・インプットを模したような機能は見当たらず、CCに比べるとトップのコントロール類も相当にシンプルに絞り込まれています。もちろん現代のアンプでは必要不可欠なエフェクト・ループやリバーブなどは完備。
VOX AC30C2
VOX AC30C2X

AC30CC(Custom Classic)シリーズ

オリジナルの音色を意識した上で、現代風の使いやすさをも内包した復刻版AC30。2000年代中期から5年ほどラインナップされていました。ACオリジナルのブリリアントインプットを模したブリリアンス・スイッチ、チャンネルリンクを模したインプット・リンク・スイッチなど、オリジナルAC30を意識したオプショナルな回路を搭載。真空管にはECC83、GZ34、EL84が使用され、JMI時代のモデルと全く同じ仕様となっています。

当時からの伝統的なトレモロエフェクトはそのままに、現在では見かけることもなくなったトレモロ専用のインプットは排除。2系統のインプットに絞り込まれましたが、オリジナルには存在しなかったマスター・ボリューム、スプリング・リバーブ、エフェクト・ループ、外部スピーカーへのエクスターナル・アウトなど、現代風の装備が新たに搭載され、劇的に使いやすさを増しました。

サウンドの傾向はオリジナルっぽさを内包しつつも、現代的なものに落ち着いている印象。ゲイン幅もかなり広く、ドライブサウンドもお手のものです。オリジナルに忠実であることに強いこだわりがないのであれば、使いやすいモデルと言えるでしょう。2010年ごろまでの販売であり、販売終了してからそれほど時間も経っていないので、様々なところで見かけることがあります。

AC30CC1

12インチ1発のスピーカーを持つCC1モデルは、ネオジウム素材を使用したセレッション製 “Neo-dog”スピーカーを使用。CCシリーズでもエントリー的な位置づけですが、レンジの広いそのサウンドはスピーカーの良質な特性がそのまま表れています。

AC30CC2、AC30CC2X

12インチ2発のスピーカーが搭載されたCC2とCC2X。CC2にはVOX純正のGSHスピーカーが使われ、メローな高域とタイトでレスポンスの良い低音が持ち味。CC2Xにはオリジナルと同じくセレッション・アルニコブルースピーカーを搭載。オリジナルのようにはじける高域を望むなら最適な選択でしょう。

AC30CC2H

AC30CCのヘッド。スピーカーの搭載はありませんが、VOXを好きなキャビネットに繋げる楽しみも得られます。純正のキャビネットにはGSHスピーカー、アルニコブルースピーカーを搭載した3種が存在し、VOXらしい音をスタックアンプから得ることができます。

AC30VR(Valve Reactor)

VOXがマルチエフェクター「Tone Lab」でも培った、モデリング技術のValve Reactor回路を搭載したモデルがAC30VR。プリアンプ部をディスクリート、パワーアンプ部に真空管を搭載したハイブリッド・コンボアンプです。通常プリ部に使用する12AXをパワー部に使用し、Valve Reactor回路によってパワー管同様の挙動をさせるという技術を用いており、これがVRの由来となります。

サウンドはクリーンと2種のドライブチャンネルの計3系統。ノーマルのクリーンチャンネルでは滑らかでブライトなVOXらしいクリーントーンを得ることができ、ドライブはクランチからハードオーバードライブまで幅広い音作りが可能です。スピーカーはセレッションのオリジナル12インチを2発。AC30という名は付いているものの、フルチューブではなく、値段も練習用アンプ並みに抑えられており、直系と言うよりは傍系と捉えられるモデルと言えますが、音色はAC30の良いところをうまく引き出した優秀なアンプです。フルチューブのAC30が高価で手が出ない、練習用として気楽にAC30の音が欲しいなどといったニーズには最適なアンプであり、12インチx2、30Wの出力は通常のライブでも実用に耐えるため、自宅練習用およびライブ用としても十分に使えるでしょう。
VOX AC30VR

AC30HW(Hand Wired)

AC30HW ビンテージなフォーン・カラー・バイナルを採用した「AC30HW」

AC30HWは全てを手作業(ハンドワイヤード)で配線した、非常に手の掛かったモデル。当然ながらAC30のなかでもフラッグシップとも呼べるモデルであり、一切の妥協のない音色を目標としています。2017年5月現在、HW2シリーズが現行品です。

AC30HW2、AC30HW2X

配線を全て手作業による空中配線にしている以外に、Customモデルでは排除された整流管が復活。GZ34というオリジナルとおなじ真空管が採用されました。他のモデルと同じく、Xの付く方はグリーンバックスピーカー。無印の方はアルニコブルーを採用しています。

VOX AC30HW2
VOX AC30HW2X

AC30のサウンドが手に入る現代の機材

VOX MV50(Nutubeアンプ)

Nutubeという極小チューブの開発を軸として生み出された新しいシリーズ。非常に小さなアンプヘッドであり、500gの重さで50Wの出力は凄いの一言。チャンネルは単一であり、CLEANとROCK、そしてAC30の音を模したACという3種がラインナップされました。ACモデルはVOXを中心としたブリティッシュ系アンプのもっとも美味しいところをうまく引き出したような極上のクランチトーンになっており、初期ビートルズ的なパンチの効いたノーマルトーンから、ロックブルースなどに最適な気持ち良いコンプ感が得られる歪みまでをカバー。軽量、安価で素晴らしいサウンドが得られ、ライブから自宅練習まで様々な用途に使えるでしょう。
VOX MV50

KEMPER

現代技術の申し子たるKEMPER Profiling Ampにも勿論AC30のモデリングが含まれています。他のモデル同様、軽く聴いている限りほとんど差は感じられず、KEMPERの出来のすさまじさばかりを感じてしまうモデリングとなっています。オリジナルのAC30が実質的に手に入れられない現在、あるいはもし手に入れたとしても、アンプの本来の実力を発揮するためボリュームを全開近くまで上げるなどほぼ不可能であり、オリジナルAC30の音を手に入れる方法としては、実際にもっとも現実的と言えるかもしれません。
未来のギターアンプを手に入れよう!プロファイリングアンプKEMPERについて


ロックの歴史を語る上で欠かすことの出来ないブリティッシュ・インヴェンジョン。ビートルズを筆頭としたイギリス勢がアメリカの音楽勢力図を塗り替えたこのムーブメントの中心には、いつもVOXのアンプがありました。現在でもなお幅広い支持を受けるAC30は、この時期に生み出された数々の名曲と同じく、時代に左右されない普遍的な魅力を備えているに違いありません。

最終更新日 : 2017/06/01
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