1962年に産声をあげたJTM45から45年後、JCMシリーズに幕を引いたJCM2000まで。マーシャルの歴史はロックの歴史といわれるほど、ロックギタリスト達にとってマーシャルアンプは重要な存在でした。ここでは、マーシャルアンプのラインナップの中でも、特に歴史的に大きな役割を果たしたモデルを中心に、時系列で紹介します。
マーシャル系歪みエフェクター特集 – Supernice!エフェクター
- マーシャルアンプの歴史
- 現行ラインナップ
- 2.1 マーシャルのフラッグシップモデル「JVMシリーズ」
- 2.2 JCM2000のサウンドを継承「DSLシリーズ」
- 2.3 歴史的銘機を復刻「VINTAGEシリーズ」
- 2.4 リイシュー版「JCM」
- 2.5 ヴィンテージマーシャルの復刻を手作業で「HANDWIREDシリーズ」
- 2.6 練習用アンプ「MGシリーズ」
- 2.7 2555をスモールサイズで復刻「MINI JUBILEEシリーズ」
- 2.8 手のひらサイズ「MICRO AMP」
- 2.9 新しいマーシャルアンプ「ASTORIAシリーズ」
- 2.10 デジタル・モデリングアンプ「CODEシリーズ」
- 2.11 真空管搭載のリーズナブルな「ORIGINシリーズ」
- まとめ
マーシャルの創始者、ジム・マーシャルはフェンダーのベースマンを参考にして、アンプの製作を開始します。それが結実したのは1962年、マーシャルブランドとしての第一号が完成しました。完成したモデルは45W仕様であるところから「JTM45」と命名され、これを皮切りとしてマーシャルは本格的にアンプの製造販売を開始します。フェンダー社のアンプとの差別化を図り、アンプとスピーカーを分けたセパレートタイプを提案。キャビネットには12インチスピーカーが4つ収まった4×12キャビネットを開発、これは現在まで続く業界標準となりました。
サウンドは現在に至るマーシャルアンプの香りがすでに漂っており、独特の粘っこさを持つクランチトーンは未だに根強いファンを持ちます。「JTM45」の使用者として、ザ・フーのピート・タウンゼンドは特に有名で、後々までマーシャルとの関わり合いが強かったギタリストとしても知られています。
TM45 2245 | Official Demo
JTM45のヒット後、ロックバンドのライブはさらなる大音量を欲することとなります。ピート・タウンゼントの要望により、急ピッチで100Wモデルの開発が進められました。その結果として登場したのが「1959 SUPER LEAD 100」。マーシャル史上でも最も有名で、ヴィンテージマーシャルの代名詞ともなる銘機です。ピートはジム・マーシャルに8×12のキャビネットの開発を依頼しましたが、運搬の困難さから、4×12キャビネットを縦に積んだスタックスタイルに収まります。このスタックスタイルは現在まで続くマーシャルのトレードマークともなっています。
1965年後半から製造された1959は、67年頃まではコントロール部にアクリルパネルが使われ、その後アルミ製のパネルに置き換わります。このごく初期のモデルに見られるアクリルパネル仕様のものをプレキシマーシャルと呼び、マーシャルらしいサウンドを体現したモデルとして、非常に高い希少価値が付いています。この「プレキシ」という用語自体が、現在では定番マーシャルサウンドを指す名前として定着しているので、聞いたことのある方も多いでしょう。
ちなみに、アルミ製パネルになった後も、73年ごろまではプリント基板は使われず、ハンドワイヤリングで製作されていました。この時期のものもプレキシに劣らない人気を誇っています。
Marshall Handwired 1959HW Super Lead Plexi 100 Amp Demo
マーシャルのデビュー機であるJTM45はフェンダーのツイードベースマンを参考にして製作されました。1959は本質的にJTM45の延長上にあるため、1959にもフェンダーのベースマンの血が流れていると言って良いでしょう。全く異なる魅力を放つ、英米を代表するフェンダーとマーシャル。フェンダーアンプこそがマーシャルの父であると言ってもあながち的外れではありません。
VINTAGEシリーズから登場した復刻版1962
JTM45開発から4年後の1966年、マーシャルは、自家用車で運搬したいというエリック・クラプトンの要望に応え、12インチのスピーカーを2台搭載した「1962」というコンボアンプを開発します。30Wで2チャンネルのこのアンプは、初号機「JTM45」をベースとし、内部にスピーカーを搭載することでコンパクトにまとめられました。エリック・クラプトン自身が「ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ」で使用したことで一躍有名となり、その由来から「Bluesbreaker」という愛称で呼ばれるようになりました。クリーミーなトーンが持ち味で、ブルースには最適なサウンドを出力します。
その由来ゆえに、マーシャルのラインナップの中でも異彩を放つ存在感があり、「Bluesbreaker」は今では伝説的銘機として語られます。マーシャルはこの後1972年ごろまで、1958、1973などのコンボアンプを矢継ぎ早に開発していくことになります。ちなみに、同社のエフェクターにも同じ「Bluesbreaker」という名のペダルが存在しますが、このアンプのサウンドを模したものです。
Marshall Bluesbreaker – Supernice!エフェクター
大音量で巨大なアンプを欲したピート・タウンゼントと、コンパクトで持ち運びやすいスタイルを要求したエリック・クラプトン。全く逆の要望を持つ二人のギタリストの存在が、マーシャルを育て上げた一つのピースともなっているのは興味深いですね。
1981年、マーシャル社はアメリカ進出を狙って「JCM800」と銘打った新シリーズを登場させます。これ以前をヴィンテージマーシャルとすれば、JCM800からは現在へと直接続く系譜。銘機「1959 SUPER LEAD 100」はJCM800のシリーズ内におけるいち機種となり、JCMシリーズが幕を開けます。
70年代にマーシャルのアンプヘッドとして主流であった1959、1987、2203、2204の4機種。スペックや音質の傾向はそのままに新たに開発を進め、これらをシリーズ化したものがJCM800です。
モデル | 1959 | 1987 | 2203 | 2204 |
出力 | 100W | 50W | 100W | 50W |
マスターボリューム | × | × | ○ | ○ |
表:JCM800 4機種の比較
50Wと100Wは音量の差のみならず、音質の差に直結するので、どちらを愛用するかはその人のプレイスタイルに繋がる重要な問題となり、時に論争が起きるほどのこだわりをギタリスト達にもたらしました。当時の50Wの愛用者としてはマイケル・シェンカー、100Wの愛用者としてザック・ワイルドが有名です。
JCM800は当時隆盛を極めたハードロックのブームにも乗り大ヒットします。歴代で最も売れたマーシャルと呼ばれ、JCM800といえば「あの頃のサウンド」で通じるほどに、時代を代表するサウンドでした。まさに80年代ハードロックを体現する一つの象徴的な音を持ち、後のハイゲインアンプへの系譜を切り開いたパイオニア的存在として、そのもたらした功績は計り知れないものがあります。
JCM900 4100
90年代の到来と同じくして、よりハイゲイン路線へ舵を切ったJCM900が発表されました。80年代後半にもなると、従来のJCM800に飽き足らなくなったプレイヤー達のハイゲイン改造が氾濫、さらなるハイゲイン志向が高まるのを受けての刷新とされています。
JCM900は800と同じく、4100、4500、2100、2500の4機種がラインナップされ、50Wと100Wの機種が両方あるのも同じです。従来と違う点としてエフェクトループなどの増設、パワー管の保護回路搭載などがあげられます。また、93年頃よりパワー管がEL34から5881に変更され、この変更をもってさらにソリッドなサウンドに変化したと言われています。
モデル | 4100 | 4500 | 2100 | 2500 |
出力 | 100W | 50W | 100W | 50W |
リバーブ | ○ | ○ | × | × |
チャンネル数 | 2ch | 2ch | 1ch | 1ch |
表:JCM900 4機種の比較
4機種の中でも4100がJCM900の代表的モデルという位置づけとなっており、現在リハーサルスタジオなどで見かけるJCM900は基本的に4100だと思って差し支えないでしょう。異なるゲインとリバーブ、ボリュームを制御できる完全独立2チャンネル仕様で、JCM800とはまた違った、全帯域が歪んだようなハイゲインが魅力的な一台です。80年代から90年代に掛けてのハードロック・ヘヴィメタル系のサウンドは、このJCM900に代表されます。
JCM2000 DSL100
1999年、新世紀を迎えるにあたり、JCM900に変わる新機種が登場します。それがJCM2000であり、2007年に販売終了となるまで、マーシャルアンプのフラッグシップを務めました。2チャンネルのDSLモデルと3チャンネルのTSLモデルがあり、一般的にJCM2000と言うとDSLモデルを指すことが多く、これは後にDSLシリーズとして派生することになります。
これまでのマーシャルのサウンドを踏襲し、クリーンから破壊的ディストーションまでの幅広いゲイン幅を確保しています。ドライブサウンドについてはUltraとClassicの2種類があり、1959系ヴィンテージサウンドからJCM900系のハイゲインサウンドまでをカバー。ミニスイッチによるEQの調整も可能になっており、サウンドの幅広さは00年代以降の多様な音楽性に幅広く対応出来るものとなりました。
この機種の販売終了後、マーシャルのフラッグシップモデルはJVMシリーズへと受け継ぐことになりましたが、その使い勝手の良さから、今でも全国のリハーサルスタジオの定番機器になっており、街のスタジオでも多々見かけます。
Marshall JCM2000 の使い方・音作りの方法 – エレキギター博士
以上、ここまで歴代マーシャルアンプを遡って紹介してきました。次のページからは、新品でも手に入りやすい現行モデルについて紹介していきます。
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