《今振り返る》ギターアンプの名器「VOX AC30」2025年12月31日

VOX AC30 復刻モデル「AC30C2」

ロックの歴史を語る上で欠かすことの出来ないブリティッシュ・インヴェンジョン。
ビートルズを筆頭としたイギリス勢がアメリカの音楽勢力図を塗り替えたこのムーブメントの中心には、いつもVOXのアンプがありました。
現在でもなお幅広い支持を受ける「AC30」は、この時期に生み出された数々の名曲と同じく、時代に左右されない普遍的な魅力を備えているに違いありません。
今回は「VOX AC30」について詳しくみていきましょう。


  1. ロック創世記のギターアンプ「VOX AC30」とは?
  2. AC30のアンプ構成
  3. AC30のサウンドの特徴
  4. 復刻された数々の「VOX AC30」
  5. AC30のサウンドが手に入る現代の機材

ロック創世記のギターアンプ「VOX AC30」とは?

VOXの歴史

イギリスを代表するアンプメーカーの一つであるVOX。
VOXブランドは、楽器店を営んでいたトム・ジェニングスと、演奏の傍らアンプの設計も行っていた設計者ディック・デニーの二人によって創設されたJMI Corporationに端を発します。
当時は1950年代、エレクトリックギターが勃興し、新しいアンプのニーズが高まっていたころです。
JMIのスタッフは、ライブで長いサステインを得られるアンプの設計に着手、その結果として1958年「AC1/15」が発表されます。
略してAC15と呼ばれた「AC1/15」は、一躍ロンドンのギタリスト達の愛用アンプとなりました。

やがてロックンロールが世界を席巻するとともに、ライヴのための大出力アンプが望まれました。
そこでVOXは前モデルのAC15にスピーカーをひとつ増設、2チャンネルの4インプット仕様とし、「AC30/4 Twin」という新機種を発表します。
「AC30/4」は通称AC30と呼ばれ、AC15のサウンドをモチーフとして出力を倍にすることで、当時ライヴ会場での出力不足を解消し、さらに粘っこいサウンドを実現。
その後、1961年にはブリリアント・チャンネルを増設し、インプットを6系統に増やした「AC30/6 Twin」というモデルがAC30/4に置き換わって登場。
これが現在に至るAC30の始祖的な位置づけとなり、今ではイギリスのギタートーンを代表するアンプとして、定番の一つになっています。


現在のVOXはコルグの傘下に入り、デジタル製品に至るまでの幅広いラインナップが魅力です

その後、VOXは1967年、創設者のジェニングスとデニーがJMIを離れるとともに、程なくしてソリッドステートアンプの路線へと舵を切ります。
ブリティッシュアンプの雄としての地位はマーシャルに引き継がれ、VOXは様々な会社の傘下を転々とします。
70年代にはマーシャルの販売代理店を務めていたローズ・モーリス社へ売却され、その後、90年代初頭にはコルグの傘下に入りました。
現在AC30として手に入りやすいモデルはこのコルグ傘下になってからのものがほとんどです。

AC30を使用したギタリスト達

VOX AC30をはじめに使用したのは当時人気を誇っていたザ・シャドウズでしたが、これを世界的に有名にした最大の功労者はやはりビートルズでしょう。
膨大に残るライブ映像のバックには常にVOXアンプが並んでいます。
1962年のデビュー時に「AC15」、「AC30」を用いてレコーディングをこなして以来、解散まで常にVOXのアンプは彼らとともにありました。


「Hello Goodbye」プロモーションビデオ。バックに写っているのは60年代後期に発売された「The Vox Defiant」

また、そのビートルズに影響を受けたクイーンのブライアン・メイ氏もAC30の愛用者の一人です。
ブライアンはAC30以外はほぼ使わないと公言するほどこれが気に入っており、自身のオリジナル・カスタムギターであるレッド・スペシャルにトレブル・ブースター、AC30が彼のトーンの秘訣と言われます。
AC30といえばトップ・ブースト回路が搭載されているものが有名ですが、彼はこれを使用せず、ノーマルチャンネルのボリュームをフルアップさせて歪んだ音を作り出しています。

その他、ジミー・ペイジリッチー・ブラックモアなど、特にイギリスのミュージシャンに幅広く使われたVOX AC30は、のちにマーシャルアンプに取って代わられるまで、ブリティッシュアンプの代表的存在として定番に君臨し続けました。

AC30のアンプ構成

VOX AC30は二つのスピーカーを備えたコンボアンプであり、ごく初期のモデルを除き、トップ・ブースト回路が備わっています。

真空管

最初期のオリジナルAC30にはプリ管にEF86、パワー管にEL84が、電流を制御するための整流管にはGZ34が使われています。
後に三つ目のチャンネルとなるブリリアント・チャンネルが増設された際にプリ管がECC83に変更され、現在でも手に入るJMI時代のモデルは一般的にこれであることが多いです。
回路構造はクラスA回路になっており、マーシャルなどに使用されたクラスBに比べて、滑らかな歪みが得にくく、真空管の寿命が短いと言われる反面、鮮明なクリーントーンを得ることが出来ます。

セレッション製スピーカー

オリジナルのAC30にはセレッションのアルニコブルースピーカーが搭載されています。
再生効率が極めて高く、大音量が得やすいのが特徴。
音色はやはりヴィンテージ傾向の強いものとなり、粘っこい中域と煌びやかな高域が得られます。
反面、レンジが広く適度に歪んだ現代的な音などは苦手なので、現在の復刻モデル(AC30C2、AC30HWR2など)では、同じくセレッションのグリーンバックスピーカーを載せたモデルも見受けられます。

コントロール

オリジナルのJMIモデルと言われるものは、ブリリアントチャンネルの付いた「AC30/6」でNORMAL、BRILLIANT、TREM/VIBの3チャンネル。
それが各々2系統ずつ、計6インプットの仕様です。
各チャンネルごとのボリュームが3つ、一番右側にチャンネル共通のTONEを装備し、パワーサプライ部にはセレクターがあり、ボルテージの変更が可能です。

JMI時代初期のAC30/6コントロール JMI時代、初期の「AC30/6」コントロール

上図のような、全チャンネル共通のTONEが一つだけの仕様は、ごく初期のもっともシンプルなものです。
この後、トップブースト回路を増設するにつれて、TREBLEとBASS、TONE CUTを含む詳細なイコライザー部が新たに加わり、これが現在のVOX AC30としての定番のコントロールになっています。
回すほど高音を削いでいくTONE CUTは現在の復刻モデルでも必ず見られるVOXアンプ独特のコントロールとして重要な位置を占めています。

当時はマスターボリュームという概念がなく、歪ませるにはボリュームを最大近くまで上げ、自然的な負荷を掛けるしかありません。
現在の復刻モデルではほとんどのものにマスターボリュームが併設されるようになっています。

現行AC30 Customのコントロール部 現行「AC30C」コントロール

AC30のサウンドの特徴

歪まないアンプという印象も強いVOX AC30ですが、実際にボリュームをしっかり上げると、良質なオーバードライブが得られます。
そのドライブの音は、現在ブリティッシュ系の音として認識される代表的なもので、絶妙なコンプ感とレンジの広さを有し、良く伸びる高音が持ち味です。

AC30の真骨頂は、なんといってもきらびやかに鳴り渡るクリーン~クランチの「チャイム・トーン」にあります。
このサウンドを現代のロックシーンに根づかせた立役者が、U2のジ・エッジでしょう。
彼はAC30のクリーンにディレイやモジュレーションを重ね、空間的で叙情的なサウンドスケープを築き上げました。
歪みに頼らず音を響かせるそのスタイルは、今なお多くのギタリストに影響を与え続けています。

オルタナティヴ/インディー系でも、レディオヘッドのエド・オブライエンやジョニー・グリーンウッドがAC30を愛用。
クリーンからエッジの効いたクランチまでをエフェクトと組み合わせ、レイヤー感のあるテクスチャーを生み出すアプローチは、現代のバンドサウンドにそのまま通じるものです。

一方、歪み側の指標となるのがクイーンのブライアン・メイ氏。
彼はAC30とトレブルブースターを併用し、あの伸びやかでハーモニクス豊かな名トーンを産み出しています。
クリーンのきらめきから、プッシュした際の粘っこいオーバードライブまで——一台で幅広い表情を見せてくれるのがAC30というアンプなのです。

チャンネルリンク

マーシャルなどと同じく、AC30もチャンネルリンクを使用するギタリストが多いアンプです。
昨今、通常に手に入るAC30の復刻モデルにはいずれもTOP BOOST HIGH/LOWとNORMAL HIGH/LOWと、2チャンネル×2系統で計4つのインプットがありますが、TOP BOOSTのHIGHにギターを繋ぎ、TOP BOOST LOWとNORMAL HIGHをパッチケーブルで接続することで、よりパワフルな音像を得ることが出来ます。

下で紹介しているAC30CCシリーズはこれが出来ませんが、擬似的に再現する「リンクスイッチ」なるものが装備されています。


ここまでVOX AC30アンプの特徴やサウンドについて紹介してきましたが、オリジナルAC30は生産完了となり、現在は当時のAC30のサウンドを再現した「復刻モデル」や、現代の技術で当時のサウンドを再現した新製品が登場しています。

復刻された数々の「VOX AC30」

JMI時代のいわゆるオリジナルAC30は、ビートルズの音色で聴けるように、はじけるような高音と粘っこい中域が印象的でした。
90年代に入り、ローズ・モーリス社の最後期に登場してコルグに引き継がれた「AC30/6 TB」は、そのサウンドをそのまま踏襲した、音色的には厳然たる復刻モデルと呼べるものでした。
ポール・マッカートニーがライブに使用していたことでも有名なこのモデルは、後述の現代的なモデルとも違ってマスターボリュームさえなく、良くも悪しくも往年のオリジナルを彷彿させるものです。
コルグ傘下になってからは「AC30CC(Custom Classic)」「AC30C(Custom)」そして「AC30HW(Hand Wired)」と、復刻モデルが次々にリリースされてきました。
このうち現在も新品で手に入る現行モデルは、フラッグシップのハンドワイヤード(AC30HWR2X)、定番のCustom(AC30C2/C2X)、そしてシングルチャンネルのAC30S1です。
以下に現行・生産完了モデルの主な仕様をまとめます。

モデル タイプ 出力 スピーカー 真空管 状態
AC30HWR2X コンボ(ハンドワイヤード) 30W 12″×2 アルニコブルー EL84×4/ECC83×4/ECC81×1/GZ34×1 現行
AC30C2/AC30C2X コンボ 30W 12″×2 グリーンバック(C2)/アルニコブルー(C2X) EL84×4/ECC83 現行
AC30S1 コンボ(1ch) 30W 12″×1 EL84×4/12AX7×2 現行

AC30HW(Hand-Wired)シリーズ

「AC30HW」は基板を一切使わず、全てを手作業(ハンドワイヤード)で空中配線した、非常に手の掛かったモデルです。
当然ながらAC30のなかでもフラッグシップとも呼べる存在であり、一切の妥協のない音色を目標としています。
2024年にはハンドワイヤード・シリーズが全面的に刷新され、電源・出力トランスやキャビネット構造を見直した「HWR」シリーズへと世代交代しました。
従来のAC30HW2/HW2Xに代わり、現行品はAC30HWR2Xが中核となっています。

AC30C(Custom)シリーズ

AC30オリジナルの音色と傾向をそのままに、細部を現代風に練り直されたAC30 Custom。後述のCustom Classicシリーズが販売終了した後の展開となり、現在のAC30の定番として最も多く見かけるモデルです。
CC版に比べるとスイッチの数も減り、シンプルに回帰した印象を受けます。サウンドもオリジナルのものに近づき、いわゆるVOXらしい音を出力します。

真空管はEL84、ECC83と、オリジナルからの系譜を受け継いでいますが、整流管はソリッドステートに置き換わっています。
スピーカーにはよりモダンな音に適したセレッションのグリーンバックスピーカー(AC30C2)か、あるいはオリジナルに忠実なアルニコブルースピーカー(AC30C2X)のいずれかを選択。
アンプヘッド版のCHや、AC30ではなくAC15のCustom版など、多岐に渡る展開がなされています。

AC30S1

Vox AC30S1

2018年6月に登場した「AC30S1」は、AC30からノーマルチャンネルを排しトップブースト・チャンネルのみにフォーカスした、シングル・チャンネルのコンボアンプです。
プリ管に12AX7を2本、パワー管にEL84を4本搭載した本格的なフルチューブ仕様ですが、歴代AC30派生モデルの中でも手に入れやすいリーズナブルな価格帯となっているのが特徴です。
出力は30W、スピーカーは12インチ1発、エフェクトループや外部スピーカーアウト端子を装備し、現代的なニーズに応えています。
従来モデルよりも小型軽量となり、AC30の本格的なサウンドがより身近に感じられるモデルです。

Vox AC30S1


このように現行のフルチューブAC30は決して安価ではありませんが、近年は小型・軽量で同じサウンドを狙えるNutube搭載機やモデリング機も充実してきました。
ここからは、より手軽にAC30のサウンドへ近づける現代の機材を紹介します。

AC30のサウンドが手に入る現代の機材

VOX MV50シリーズ

Nutubeという極小チューブの開発を軸として生み出された新しいシリーズ。
非常に小さなアンプヘッドであり、500gの重さで50Wの出力は凄いの一言。
チャンネルは単一であり、CLEANとROCK、そしてAC30の音を模したACという3種がラインナップされています。
ACモデルはVOXを中心としたブリティッシュ系アンプのもっとも美味しいところをうまく引き出したような極上のクランチトーンになっており、初期ビートルズ的なパンチの効いたノーマルトーンから、ロックブルースなどに最適な気持ち良いコンプ感が得られる歪みまでをカバー。
軽量、安価で素晴らしいサウンドが得られ、ライブから自宅練習まで様々な用途に使えるでしょう。
なお、ブライアン・メイ本人が監修したシグネチャー・モデル「MV50 Brian May」もラインナップされています。

VOX MV50

VOX MVX150シリーズ

VOX MVX150シリーズ

MVX150シリーズは、MV50シリーズと同様に小型真空管「Nutube」を搭載したVOXの真空管アンプシリーズ。
VOX Nutube搭載アンプの中でも最上位機種となる製品です。

  • アンプヘッド「MVX150H」
  • コンボアンプ「MVX150C1」
  • MVX150H対応のキャビネット・スピーカー「BC112-150」

という3機種がラインナップ。
コンボアンプ、アンプヘッド共に小型ながら150Wの大出力を誇ります。

パワーアンプ部はNutubeとソリッドステートを組み合わせた「NuPower」技術を取り入れ、真空管アンプならではの生々しいダイナミックなレスポンス/トランジスタアンプならではの広い周波数特性をあわせ持っています。
これによってクリーントーンからモダンハイゲインまでの激しい歪みに対応する2ch仕様と幅広い音作りに対応、VOXらしさを持ちながらも幅広いジャンルに対応するサウンドが1台で得られます。

VOX MVX150シリーズ

MINI SUPERBEETLE MSB25

Vox MINI SUPERBEETLE MSB25

MINI SUPERBEETLE MSB25は、ザ・ビートルズがUSAツアーで使用したVOXスタックセットを、Nutubeを使用してミニチュアサイズに落とし込んだ製品です。
60年代王道ロックサウンドを再現したいという人や、ビートルズの熱烈なファンにはたまらない逸品です。
自宅インテリアにも相応しいレトロなルックス。
深夜の演奏にも対応できるようヘッドフォン端子を搭載、定格25W(4Ω接続時で最大50W)と小型ながら迫力あるサウンドが得られます。

VOX MINI SUPERBEETLE MSB25

VOX Cambridge50

VOX Cambridge50

「Cambridge50」は、Nutubeを搭載したモデリング・コンボアンプ。
VET(Virtual Element Technology)と呼ぶ独自のモデリング技術により、AC30をはじめとする多彩なアンプサウンドを1台で再現します。
50Wの出力に12インチのセレッションVX12スピーカーを搭載し、リバーブやディレイなどのエフェクトも内蔵。
フルチューブのAC30には手が出ないけれど、その音色を自宅練習からちょっとしたライブまで気軽に使いたい、というニーズに応える現代的な選択肢です。
専用アプリと連携した細かな音作りにも対応しています。

VOX Cambridge50

KEMPERでAC30のモデリングサウンドを使うという手も…

現代技術の申し子たるKEMPER Profiling Ampにも勿論AC30のモデリングが含まれています。
他のモデル同様、軽く聴いている限りほとんど差は感じられず、KEMPERの出来のすさまじさばかりを感じてしまうモデリングとなっています。
オリジナルのAC30が実質的に手に入れられない現在、あるいはもし手に入れたとしても、アンプの本来の実力を発揮するためボリュームを全開近くまで上げるなどほぼ不可能であり、オリジナルAC30の音を手に入れる方法としては、実際にもっとも現実的と言えるかもしれません。

未来のギターアンプを手に入れよう!プロファイリングアンプKEMPERについて