《今振り返る》ギターアンプの名器「VOX AC30」2017年5月31日

復刻モデル「AC30C2」

ロックの歴史を語る上で欠かすことの出来ないブリティッシュ・インヴェンジョン。ビートルズを筆頭としたイギリス勢がアメリカの音楽勢力図を塗り替えたこのムーブメントの中心には、いつもVOXのアンプがありました。現在でもなお幅広い支持を受ける「AC30」は、この時期に生み出された数々の名曲と同じく、時代に左右されない普遍的な魅力を備えているに違いありません。
今回は「VOX AC30」について詳しくみていきましょう。

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1: ロック創世記のギターアンプ「VOX AC30」とは? 1.1: VOXの歴史 1.2: AC30を使用したギタリスト達 2: AC30のアンプ構成 2.1: 真空管 2.2: セレッション製スピーカー 2.3: コントロール 3: AC30のサウンドの特徴 3.1: チャンネルリンク 4: 復刻された数々の「VOX AC30」 4.1: AC30C(Custom)シリーズ 4.2: AC30CC(Custom Classic)シリーズ 4.3: AC30VR(Valve Reactor) 4.4: AC30HW(Hand Wired) 4.5: AC30S1 5: AC30のサウンドが手に入る現代の機材 5.1: MV50シリーズ 5.2: MVX150シリーズ 5.3: MINI SUPERBEETLE MSB25

ロック創世記のギターアンプ「VOX AC30」とは?

VOXの歴史

イギリスを代表するアンプメーカーの一つであるVOX。VOXブランドは、楽器店を営んでいたトム・ジェニングスと、演奏の傍らアンプの設計も行っていた設計者ディック・デニーの二人によって創設されたJMI Corporationに端を発します。当時は1950年代。エレクトリックギターが勃興し、新しいアンプのニーズが高まっていたころです。JMIのスタッフは、ライブで長いサステインを得られるアンプの設計に着手。その結果として、1958年「AC1/15」が発表されます。略してAC15と呼ばれた「AC1/15」は、一躍ロンドンのギタリスト達の愛用アンプとなりました。

やがてロックンロールが世界を席巻するとともに、ライヴのための大出力アンプが望まれました。そこでVOXは前モデルのAC15にスピーカーをひとつ増設、2チャンネルの4インプット仕様とし、「AC30/4 Twin」という新機種を発表します。「AC30/4」は通称AC30と呼ばれ、AC15のサウンドをモチーフとして出力を倍にすることで、当時ライヴ会場での出力不足を解消し、さらに粘っこいサウンドを実現。その後、1961年にはブリリアント・チャンネルを増設し、インプットを6系統に増やした「AC30/6 Twin」というモデルがAC30/4に置き換わって登場。これが現在に至るAC30の始祖的な位置づけとなり、今ではイギリスのギタートーンを代表するアンプとして、定番の一つになっています。


現在のVOXはコルグの傘下に入り、デジタル製品に至るまでの幅広いラインナップが魅力です

その後、VOXは1967年、創設者のジェニングスとデニーがJMIを離れるとともに、程なくしてソリッドステートアンプの路線へと舵を切ります。ブリティッシュアンプの雄としての地位はマーシャルに引き継がれ、VOXは様々な会社の傘下を転々とします。70年代にはマーシャルの販売代理店を務めていたローズ・モーリス社へ売却され、その後、90年代初頭にはコルグの傘下に入りました。現在AC30として手に入りやすいモデルはこのコルグ傘下になってからものがほとんどです。

AC30を使用したギタリスト達

VOX AC30をはじめに使用したのは当時人気を誇っていたザ・シャドウズでしたが、これを世界的に有名にした最大の功労者はやはりビートルズでしょう。膨大に残るライブ映像のバックには常にVOXアンプが並んでいます。1962年のデビュー時に「AC15」、「AC30」を用いてレコーディングをこなして以来、解散まで常にVOXのアンプは彼らとともにありました。


「Hello Goodbye」プロモーションビデオ。バックに写っているのは60年代後期に発売された「The Vox Defiant」

また、そのビートルズに影響を受けたクイーンブライアン・メイ氏もAC30の愛用者の一人です。ブライアンはAC30以外はほぼ使わないと公言するほどこれが気に入っており、自身のオリジナル・カスタムギターであるレッド・スペシャルにトレブル・ブースター、AC30が彼のトーンの秘訣と言われます。AC30といえばトップ・ブースト回路が搭載されているものが有名ですが、彼はこれを使用せず、ノーマルチャンネルのボリュームをフルアップさせて歪んだ音を作り出しています。


クイーン86年のライブ。ブライアンの後ろにAC30が確認できます。

その他、ジミー・ペイジリッチー・ブラックモアなど、特にイギリスのミュージシャンに幅広く使われたVOX AC30は、のちにマーシャルアンプに取って代わられるまで、ブリティッシュアンプの代表的存在として定番に君臨し続けました。

AC30のアンプ構成

VOX AC30は二つのスピーカーを備えたコンボアンプであり、ごく初期のモデルを除き、トップ・ブースト回路が備わっています。

真空管

最初期のオリジナルAC30にはプリ管にEF86、パワー管にEL84が、電流を制御するための整流管にはGZ34が使われています。後に三つ目のチャンネルとなるブリリアント・チャンネルが増設された際にプリ管がECC83に変更され、現在でも手に入るJMI時代のモデルは一般的にこれであることが多いです。回路構造はクラスA回路になっており、マーシャルなどに使用されたクラスBに比べて、滑らかな歪みが得にくく、真空管の寿命が短いと言われる反面、鮮明なクリーントーンを得ることが出来ます。

セレッション製スピーカー

オリジナルのAC30にはセレッションのアルニコブルースピーカーが搭載されています。再生効率が極めて高く、大音量が得やすいのが特徴。音色はやはりヴィンテージ傾向の強いものとなり、粘っこい中域と煌びやかな高域が得られます。反面、レンジが広く適度に歪んだ現代的な音などは苦手なので、現在の復刻モデル(AC30C2、AC30/6 TBなど)では、同じくセレッションのグリーンバックスピーカーを載せたモデルも見受けられます。

コントロール

オリジナルのJMIモデルと言われるものは、ブリリアントチャンネルの付いた「AC30/6」でNORMAL、BRILLIANT、TREM/VIBの3チャンネル。それが各々2系統ずつ、計6インプットの仕様です。各チャンネルごとのボリュームが3つ、一番右側にチャンネル共通のTONEを装備し、パワーサプライ部にはセレクターがあり、ボルテージの変更が可能です。

JMI時代、初期の「AC30/6」コントロール

上図のような、全チャンネル共通のTONEが一つだけの仕様は、ごく初期のもっともシンプルなものです。この後、トップブースト回路を増設するにつれて、TREBLEとBASS、TONE CUTを含む詳細なイコライザー部が新たに加わり、これが現在のVOX AC30としての定番のコントロールになっています。回すほど高音を削いでいくTONE CUTは現在の復刻モデルでも必ず見られるVOXアンプ独特のコントロールとして重要な位置を占めています。

当時はマスターボリュームという概念がなく、歪ませるにはボリュームを最大近くまで上げ、自然的な負荷を掛けるしかありません。現在の復刻モデルではほとんどのものにマスターボリュームが併設されるようになっています。

2017年5月現在、現行「AC30C」コントロール

AC30のサウンドの特徴

歪まないアンプという印象も強いVOX AC30ですが、実際にボリュームをしっかり上げると、良質なオーバードライブが得られます。そのドライブの音は、現在ブリティッシュ系の音として認識される代表的なもので、絶妙なコンプ感とレンジの広さを有し、良く伸びる高音が持ち味です。ブライアン・メイ氏はこれとトレブルブースターを併用して、あの名トーンを産み出しているので、そのサウンドもひとつの指標となるでしょう。

チャンネルリンク

マーシャルなどと同じく、AC30もチャンネルリンクを使用するギタリストが多いアンプです。昨今、通常に手に入るAC30の復刻モデルにはいずれもTOP BOOST HIGH/LOWとNORMAL HIGH/LOWと、2チャンネル×2系統で計4つのインプットがありますが、TOP BOOSTのHIGHにギターを繋ぎ、TOP BOOST LOWとNORMAL HIGHをパッチケーブルで接続することで、よりパワフルな音像を得ることが出来ます。

下で紹介しているAC30CCシリーズはこれが出来ませんが、擬似的に再現する「リンクスイッチ」なるものが装備されています。


ここまでVOX AC30アンプの特徴やサウンドについて紹介してきましたが、オリジナルAC30は生産完了となり、現在は当時のAC30のサウンドを再現した「復刻モデル」や、現代の技術で当時のサウンドを再現した新製品が登場しています。次のページで見ていきましょう。